産業医と人事が考える職場環境改善
研修を実施し、相談窓口を設け、ストレスチェックも行っている。それでも、特定の部署では長時間労働や不調による休業が続く。企業が次に検討すべきことは、施策をもう一つ増やすことだけだろうか。
医療的な支援を必要とする人には、個別の相談や治療への接続が欠かせない。同時に、同じ職場で負荷が繰り返し生じているなら、仕事の進め方にも目を向けたい。株式会社Medi Face代表の近澤徹医師は、健康経営と組織の課題を扱う記事で、個人向け施策だけで職場の問題を解こうとすることに問いを投げている。Tactical Medではこの問題を、企業がどの情報を見て、誰が何を決めるかという実務から考える。
「不調者がいる」という情報だけでは、改善策は決まらない
面談で一人の従業員を支えることと、部署の働き方を見直すことは、別々の仕事だ。前者では本人の健康状態や就業上の配慮を検討する。後者では、業務量、納期、役割分担、上司への相談のしやすさなど、職場側の条件を確認する。個人の健康情報を、そのまま組織の評価材料にするべきではない。
ストレスチェックの集団分析は、職場に目を向ける一つの手がかりになる。ただし、数値だけで原因を決めつけることはできない。厚生労働省の「こころの耳」も、集団分析の結果を職場環境改善のヒントとして扱い、現場の上司や従業員の視点と合わせて確認することを勧めている。小規模な集団を扱う際は、個人が特定されないよう配慮も必要だ。
人事・管理職・産業医が決める三つのこと
1.何が負荷になっているか。 残業時間だけを見るのではなく、繁忙の時期、急な依頼の入り方、決裁待ち、担当者への業務の集中などを確認する。集団分析と勤怠等の情報を手がかりに、現場の実情を聞く。ここでは「誰が弱いか」を探さない。
2.どの業務をどう変えるか。 例えば、依頼の優先順位を誰が決めるか、業務を誰に分散できるか、管理職が判断を返す期限を設けられるか。産業医は健康への影響と必要な配慮について意見を述べ、人事・管理職は業務や配置について判断する。医師が企業の経営判断を代行するわけではない。
3.いつ、何をもって見直すか。 改善策を決めたら、実施したかどうかだけで終えない。業務量や労働時間、相談のしやすさなど、最初に課題とした点を一定期間後に確認する。変化が見られなければ、仮説と対策を見直す。個人への面談・支援も並行して続ける。
WHOの職場メンタルヘルス指針は、仕事に伴う心理社会的リスクに対応する組織への介入を予防策として挙げている。国内でも厚生労働省は、ストレスチェックの集団分析などを職場環境改善に活用するための資料を公開している。これは個人への支援をやめるという意味ではない。個別支援と職場の改善を、目的の異なる二つの取り組みとしてつなぐということだ。
産業医を「面談を行う人」で終わらせない
企業側が必要とするのは、面談の件数を増やすことだけではない。医療的な見立てを、本人への配慮と、職場で実行できる選択肢に翻訳することである。Tactical Medは、産業医業務、面談、就業支援、衛生委員会、健康診断に関わる業務などを通じ、企業の産業保健を支援している。
自社の健康施策と職場の実態をどうつなぐか、産業医・産業保健サービスをご覧ください。個別の体制についてはお問い合わせからご相談いただけます。
参考資料
- 近澤徹「『健康経営』と唱えても外来患者が減らない理由」(本稿の問題提起の着想)
- WHO, Guidelines on mental health at work (2022)
- 厚生労働省「こころの耳」ストレスチェック・集団分析と職場環境改善
- 厚生労働省「こころの耳」職場環境改善ツール
著者:荒木 琢登。一般社団法人Tactical Med代表理事・医師。株式会社Medi Face執行役員、Z産業医事務所主任産業医。臨床と産業保健、企業での事業・プロダクト開発に携わる。詳しくは人物紹介。
