残業時間を月末に集計して、「80時間を超えていないから大丈夫」と考えていないでしょうか。長時間労働とメンタルヘルスを考えるときは、合計時間だけでなく、長い勤務がどのくらい繰り返されているかも重要です。

日本の15,143人を、実際の勤怠記録で調べた
労働安全衛生総合研究所のJNIOSHコホート研究では、国内5企業の15,143人について、6か月分の勤怠記録と、その後のストレスチェック結果を解析しました。自己申告の「だいたい何時間働いたか」ではなく、企業の勤怠データを使っているのが特徴です。過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の解説
標準的な労働時間(月140〜180時間)と比べると、月180時間以上の群ではイライラ感、不安感、抑うつ感が有意に高く、月205時間以上では疲労感と活気の低下も有意に高くなっていました。
「45時間超の残業が何回続いたか」も関係した
この研究では、月205時間以上、つまり所定労働時間に加えておおむね月45時間以上の残業に相当する状態を長時間労働として、その発生頻度も調べています。過去6か月で長時間労働が繰り返されるほど、心理的ストレス反応が強くなる傾向が確認されました。
大切なのは、「今月だけ80時間未満だった」という一点だけを見ないことです。繁忙が何か月も続いている、45時間を超える月が何度も出ている、といった連続性・頻度も確認する必要があります。
厚労省も45時間・80時間を重要な目安としている
厚生労働省「こころの耳」では、時間外・休日労働が月45時間を超えて長くなるほど健康障害のリスクが高まると説明しています。また、月80時間を超え、疲労の蓄積があり、本人から申し出があった場合には、事業者に医師による面接指導が求められます。厚生労働省「こころの耳」
ただし、45時間や80時間は「そこまでは安全」という線ではありません。睡眠時間、勤務間インターバル、仕事の質、責任、人間関係、本人の症状なども合わせて評価します。
睡眠が削られていないかを見る
長時間労働や長い通勤で一日の時間が圧迫されると、削られやすいのが休養と睡眠です。厚生労働省も、睡眠が十分に確保されない状態は心身の健康に支障を来し、メンタルヘルス不調につながり得ると説明しています。こころの耳Q&A
産業保健では、残業時間の数字だけではなく、「眠れているか」「疲労が翌日まで残っていないか」「集中力や感情の変化が出ていないか」を具体的に確認することが重要です。
会社が見るべきポイント
- 月の残業時間だけでなく、45時間超が何か月続いているかを見る。
- 繁忙期が連続しないよう、業務量や人員配置を調整する。
- 睡眠、疲労、抑うつ・不安などの変化を面談で確認する。
- 長時間労働者への面接指導を「実施して終わり」にせず、就業上の措置へつなげる。
長時間労働対策は、勤怠集計だけでは完結しません。企業の過重労働対策、産業医面談、就業配慮の設計については産業医・産業保健サービスをご覧ください。
参考文献
- Ochiai Y, et al. Characteristics of long working hours and subsequent psychological and physical responses: JNIOSH cohort study. Occup Environ Med. 2023;80:304-311.
- Virtanen M, et al. Long working hours and depressive symptoms: systematic review and meta-analysis. Scand J Work Environ Health. 2018.
- 厚生労働省 こころの耳:長時間労働のおそれがある場合

