「最近眠れない」と相談されたとき、睡眠のコツを伝えるだけで対応が終わっていないでしょうか。眠る時間が足りないのか、時間はあるのに眠れないのか、日中の仕事にどのような支障があるのか。企業の対応は、この違いを確認するところから始まります。

大学生3,755人の試験では、不眠と抑うつ・不安を評価した
2017年のOASIS試験は、英国26大学の不眠がある学生3,755人を、不眠に対するデジタル認知行動療法の群1,891人と通常対応の群1,864人に割り付けました。10週時点で、主要評価項目の一つである睡眠尺度SCI-8は、介入群で対照群より4.78点良好でした(95%信頼区間4.29〜5.26)。この尺度は高いほど睡眠状態が良好です。[1]
副次評価項目では、抑うつ尺度PHQ-9が対照群より2.83点低く、不安尺度GAD-7も1.86点低い結果でした。睡眠への介入を、心の不調への支援と切り離さず考える根拠になります。ただし、対象は大学生であり、日本の従業員の休職や生産性を直接検証した研究ではありません。追跡時の欠測が多く、躁症状尺度の上昇も報告されています。「睡眠を改善すれば、どの精神疾患も治る」とは言えません。[1]
睡眠アプリなら何でも同じ、ではない
2025年の系統的レビューでは、完全自動のデジタル認知行動療法を扱う29件のランダム化比較試験、計9,475人を解析しました。不眠の重症度は対照群より改善しました(標準化平均差−0.71、95%信頼区間−0.88〜−0.54)。一方、研究間のばらつきは大きく、治療者の支援がある認知行動療法との比較では完全自動型の効果が小さい結果でした。ここで検証されたのは、治療内容が定められたプログラムです。一般的な睡眠記録アプリや音楽アプリへの効果保証ではありません。[2]
企業が決めたいのは、相談後の動き方
実務では、まず本人が眠るための時間を確保できているかを確認します。遅い退勤、早い出勤、夜間の連絡が重なっているなら、勤務と連絡ルールの調整を検討します。時間はあるのに眠れない、眠気で仕事の安全に支障がある、気分の不調も続く場合は、医療機関への相談を案内します。産業医には、業務内容と勤務状況を添えて就業上の配慮を相談できます。
面談の記録は「睡眠について説明した」で終えず、次に誰が何を確認するかまで決めます。本人の詳しい症状を職場全体へ共有する必要はありません。勤務の調整に必要な情報に絞って、本人と情報の扱いを確認します。
不眠が続いて日中の生活に支障がある場合は、セルフケアだけで長く様子を見ず医療機関へ相談してください。強い眠気がある状態での運転や危険作業についても相談が必要です。
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